大学時代、建築家 阿部勤さんの自邸「中心のある家」を
見学させていただく機会がありました。
建築好きなら誰もが知っている名作住宅です。
当時の私は少々緊張しながらお邪魔しましたが、
そんな不安は杞憂に終わり、
出迎えてくださった阿部さんは
とても気さくにお家を案内してくださいました。

敷地があるのは閑静な住宅街の一角。
7.7mの箱の中に3.6mの「中心」があり、
回廊状に空間が続いています。
1階はRC造で、「中心」である居間を
玄関やキッチンなどの住宅の要素が連続して取り巻き、
さらにその周りを木々や光といった
外部の要素が囲みます。

2階は木造で軽やかなつくりで、
高さを抑えて横に連続する窓は外部とつながり、
木の上に暮らしているような気分になりました。
お庭の木々は時間をかけて成長し、
今ではすっかり森のよう。
この家を守ってくれているように感じました。
建具や間仕切り壁がほとんどないにもかかわらず
不思議な安心感があるのは、
重層する空間のなかで、平面的にも立体的にも
それぞれの居場所が見え隠れしながら
つながっているからでしょうか。

回廊の四隅にはデイベッドが置かれ、
窓辺には阿部さんが長年にわたり世界各地で集めた
お気に入りのモノがずらりと並びます。
「こっちで万華鏡をのぞいたり、
あっちで寝ころびながら本を読んだり、
気分によって過ごし方や過ごす場所を変えているんだよ」
そう言って笑いながら私に万華鏡を手渡してくれた、
阿部さんの楽しげな姿が印象的でした。

竣工が1974年と長い月日が経っていますが、
それでも古びた印象を感じさせないのは
使われている天然の素材が、
人や暮らしに馴染んでいくからだと思います。
阿部さんは
「この家は今が一番好きだ」
とおっしゃっていました。
人が歳を重ねるように、家もまた同じく歳を重ねるもの。
時間のなかで暮らす人との関係が深まり、
居心地が良くなっていくような
そんな永く愛される家をつくっていきたいです。

