2015.10.26

先月の下旬に京都の圓通寺を訪れました。

 

一般的には有名ではありませんが、建築家の中ではかなり有名な建築です。
場所は京都の北山にあり、観光地と少し離れた場所にあります。
私が訪れたときは天気が悪かったのもあるのか、ほぼ貸切状態で見学することができました。

暗い玄関口から中に入り、少し歩いたところで急にメインの庭が現れます。

銀閣のある慈照寺や、桂離宮などの大きな庭園とは違い、圓通寺の庭は小ぶりで可愛らしいサイズ感でした。
若干物足りなさがあるように思えたのですが、ふと畳に座って庭を眺めてみると、その素晴らしさに心を奪われました。座った途端に急に庭と建築が一体になったような感覚を覚えたからです。想像していたよりはるかに素晴らしく、一時間ほどただじっと景色を眺めていました。そしてしばらくしてこれほどまでに素晴らしい理由を自分なりに探しました。

まず、垣根の高さ。床座で眺めたときに丁度目線の高さにきます。そして縁側の水平ライン、下がり壁の水平ライン、垣根の水平ラインが綺麗に揃っていてとても美しいです。
意外だったのが建物の床の高さで、庭の地面と高さを揃えて外とつながるようにしているのかと思ったのですが、ここは一般の住宅の高さよりさらに20センチほど高く、より地面から遠ざけていました。ただよく思い返せば、石庭で有名な龍安寺も、嵐山の天龍寺も、庭で有名な日本建築は床が高いです。この床の高さが縁側と庭の境目のラインをしっかりと見切り、庭との物理的な距離を遠ざけることで、精神的な距離を近づけているように思えました。

 

次に建物の柱と庭に植えられた樹の幹との関係性。幹を柱に見立てることで建築が庭に引き込まれていきます。ここまで見事な見立ての手法は今まで見てきた中で一番素晴らしく感じました。

 

そして、第一の借景となる庭の後ろの木々がもたらす遠近感。これがあることで必要以上に庭に深みが生まれ、尚かつ重心が下がり、床座で見たときに視線が奥に伸びていく効果が生まれていました。

 

最後に曇り時々雨のうっすら見える比叡山。本来なら山の形がはっきり映り絵画が完成するのですが、この少し霧がかかったような見え方もとても幻想的でした。天気が悪いのは良くないと思われがちですが、曇りの日も雨の日も雪の日も、それぞれが美しい景色を見せてくれるのが日本建築の良いところだと思います。

あくまで自分の解釈で正解などないのですが、ただこれほどにも素晴らしい建築(庭や後ろの木々や比叡山などを含んだ景色をまとめて建築と呼べるのであれば、改めて日本建築の懐の深さに感激します)が一般的に無名なのが驚きです。

 

そして今回、写真を撮る時間が勿体なくてほとんど撮っていません。良い写真がなくてすいません。

 
次訪れるのは春か夏か秋か冬か、晴れか曇りか雨か雪か、ただ間違いなくどの景色も素晴らしいはずです。
by nagayama