「懐かしさ」が導く、心地よい土地選び
2025.7.4
普段の何気ない暮らしの中で、ふと目にした風景に、
どこか懐かしさを感じることがあります。
それは景色そのものなのか、風が運ぶ匂いなのか、
あるいは周囲から聞こえてくる音なのか。
何に心が反応しているのかははっきりしないものの、
幼い頃に慣れ親しんだ、あの感覚が不意に蘇る瞬間が
あります。
住宅の設計や土地探しのお手伝いを
させていただいている中で、
こうした「懐かしさ」や「安心感」にまつわる経験に
たびたび出会います。

あるご夫婦と土地を探していたときのことです。
複数の候補地をご案内し、いずれも魅力的な場所で
悩まれていました。
最終的に「ここにしよう」とご夫婦が決めたのは、
ご自身の中にある原風景に近いものを感じた場所でした。
小さい頃に見ていた山のかたち、
夕方になると聞こえてきた虫の声、
田畑の匂いや、遠くに広がる空。
そうした記憶の断片が、現在の風景と重なったとき、
人は直感的に「ここがいい」と感じるのかもしれません。

それは、言葉ではうまく説明できないけれど、
自分の中に確かに存在する「安心できる感覚」
なのだと思います。
土地選びには、日当たりや通風、
交通の便、周辺環境など、
さまざまな実用的な要素が関わってきます。

けれど、それらに加えて
「自分の原風景に通じるものがあるかどうか」
という視点を持つことで、
より心から落ち着ける暮らしの場を
見つけやすくなるように思います。
住まいは、心がほどける日常を紡ぐ場所です。
だからこそ、
自分の心が深いところで安らげる場所を選ぶことが、
長く快適に暮らしていくために大切なことだと思います。
Araki