おじいさん設計士の言葉

2018.3.5

私がまだ建築を学び始めたばかりの頃に聞いた、

おじいさん建築士の言葉を、ふと思い出すことがあります。

 

それは、現地調査へ向かったときのことです。

そこは私が育った町とよく似ている住宅地でした。

お家は均一な表情で並び、緑は控えめで、道路には無機質なブロック塀が連なる光景です。

 

そのおじいさん建築士は辺りを見回し、どこか寂しそうな表情で、

「これじゃあ、まるで、建物じゃないか」

と仰いました。

 

あの頃は、その言葉の意味がよく理解できませんでした。

住宅=建物としか感じていなかったのでしょう。

 

ですが、今、設計士という立場になって

そのときのその言葉の意味がわかるような気がしています。

 

きっとその建築士は、

「ご近所さんを迎え入れるような佇まいや、

緑をお裾分けできるような余裕がすべての住宅にあれば、

町は単なる無機質な“建物”の集合体ではなくなるんじゃないか」

と考えていたんだろうと思います。

 

町全体がよくなるなんて、あまりにおそれ多いですが、

少なくとも、住む人のおおらかな優しさや暮らしの愉しみが、

通りを行く人たちにそっと伝わるようなお家をつくりたいと思っています。


 

By ogawa