豊かさのなかのシンプル

2019.1.18

よく見るどこにでもあるカッターナイフです。
建築模型をつくるときに使うこのカッターは、私の学生時代からの愛用品です。
 
他の人がこのカッターを使うと、とても使いづらそうにしています。
私の利き手は左です。であれば、このカッターは左利き用…というわけではありません。
少し手を加えれば右利きの人でも使いやすいカッターです
 
ではなぜ使いづらいのか、その理由はカッターの刃の向きにあります。

目を凝らしてよく見ると刃の出る先端に
とてもとても繊細な文字でRIGHTとLEFTの表記があります。
そうです、
これは刃の向きを変えるだけで右勝手か左勝手かが変わる左右両用のカッターなのです。
刃をスライドさせるためのつまみ部分が、利き手によいグリップ感を与え
まさに文字通り、使い勝手を左右しています。
 
初めから左右両用と認識して購入したわけではなく、
際し所はこれと同じカッターを友人に借りて、初めて使いました。
その時この事実に気が付き、とても感動したことを覚えています。
 
とてもシンプルなつくりのカッターですが、
そこには使う人すべてのことを考えた豊かさがありました。
 
いろいろなものを削ぎ落としてシンプルなものをつくるとき、
一歩間違えて、本来の機能や価値まで削ぎ落としてしまったら
そこには貧しさだけが残ります。
 
道具だけではなく空間も同じで、本来の機能や価値を見失ってしまった空間は
何とも居心地の悪いものです。
 
私たちは、その土地が持っている可能性や
人が心地良いと感じる普遍的な要素や価値を見失うことなく
これからも豊かな家づくりをを続けていきます。
 
by kimata