自然美
設計物件の建築中現場で体験した出来事です。
敷地の南面が大きな公園の緑地帯に面した
環境から、2階をリビング階としている
住まいです。
公園側に設けたインナーバルコニーを介し、
木製建具の窓からふんだんにこの景色を
取り込む設計にしていました。
現場が佳境へと差し掛かったタイミングで、
夕暮れ時に現場に立ち寄りました。
すると、ずっと養生されて見る事が
できなかった、公園側の窓からの景色が
露わになっていました。
春の夕日に照らされた雑木たちは、
朝や昼間とは違った色を帯び、
何とも言えぬ表情と、強い生命感で
私を圧倒してきました。
現場の静けさも相まって、思わず息をのみ、
私はしばらくこの景色に目を奪われて
いました。
どれだけ一生懸命庭を造りこんでも
この自然美は獲得できない…、
どれだけお金や時間をかけても
人工的にこの美しさは作れない…、
そんな事を思いながら帰路につきました。
時間をかけて育った雑木の野生美はとても
豊かなもので、夕日と静けさが相まって、
設計時のイメージを遥かに超える景色を
目にする事ができました。
また、この環境の素晴らしい点は、
鳥のさえずり・木々が風に揺れる音・公園の
賑やかな声が
暮らしの中で感じられる事です。
BGMやTVなどなくても退屈しない、
穏やかな空気が流れていました。
本を読みたくなるような雰囲気と
いいましょうか。
設計的な工夫として、景色を取り込むために
インナーバルコニーの床をぐっと下げ、
手摺壁を低く見せ、安全性のための手摺は
鉄と南洋材の組み合わせで室内からの美観を
整えるとともに、
自然素材で仕立てて
外リビングのように扱っています。
インテリアの色彩は景色を引き立たせる
ために、トーンを抑えています。
これら設計上の工夫は全て、
「自然美を引き出すこと」がアイディアの
きっかけとなっていました。
敷地環境を読み解き、設計のフィルターを
通して、暮らしの中で活かしてゆく事は、
私たち住宅設計士がする仕事のひとつです。
by Yamada