「時」を買う
「ものを買うことは、人生のひと区切りを買うこと」
陶芸家・山本教行さん著「暮らしを手づくりする」
という本の中で出会った言葉です。
自分がものを買うときのことを思い返しながら、
読み進めていました。
「気に入った五千円のコーヒーカップ&ソーサーを、
ちょっと張り込んで買ったとしましょう。
単に器物を買うと考えると、
多くの人は少し高いなと感じるかもしれません。
でも、このカップでコーヒーを飲んでいる
「時間」を買ったと考えたらどうでしょうか。
お気に入りのコーヒーカップをなでながら
美味しいコーヒーをすする。
その「間」というのは、ささやかだけれど、
何ものにも代えがたい時間なのではないかと思います。
その対価として払った五千円は
決して高いとは思わないのではないでしょうか。」
私は器が好きでよくお店へ立ち寄っては、
さまざまな器を手に取ってみたり、
違う角度から眺めて想像を膨らませています。
そこには、器を所有したいという欲求ではなく、
その器にはどんな料理が似合うか、
なにを盛りつけたら食事がより楽しい時間になるか、
いつも器を買った後の時間について考えています。
本を読みながら、無意識のうちに「もの」ではなく、
「時」を買っていたのだと気づかされました。
私たちがご提案するのは、
「住宅」という人生の中で最も高価なものであり、
住む人の生活や心のあり方に
深く影響を与え続けていくものです。
お庭を眺めながらコーヒーを飲むひと時から、
家族が灯りを囲んで食事を共にする時間、
お子様が成長していく過程でついた傷や愛おしい落書き、
年を重ねる中で少しずつ変化していく暮らし方など、
住宅は長い時間を経て
家族のさまざまな「時」を包みます。
だからこそ、雨風をしのぐためだけの「箱」ではなく、
お客さまとは丁寧に対話を重ね、
その中で見えてくるそのご家族にとっての
最適な住まいをご提案できる
設計士でありたいと思います。
永くお住まいをしていただく中で、
「家を買ってよかった」ではなく、
「この暮らし方、生き方を選択してよかった」と
思っていただける日を想像しながら、
これからもお客さまと向き合い、
丁寧に家づくりをしていきたいです。
Saito