忘れられない空間

2025.1.17

今でも、はじめて訪れたときのことを、
鮮明に思い出せる。
 
それくらい鮮烈な印象が残っている場所が、
いくつかあります。
 
そのうちの一つが、京都にある、
蓮華寺というお寺です。
 
京都駅からみて北東、
叡山電車に乗っていくところにあります。
 
はじめて訪れたのは、社会人になって、3年目の夏。
駅から降りてしばらく歩くと
車通りのある道路からつづく路地のような道の奥に、
蓮華寺の門が控えめに建っています。
 
その門をくぐった瞬間。
それまで聞こえていた車の音は立ち消え、
青々としたモミジの葉に包まれた、
石畳のアプローチが現れます。
 

 
照りつける夏の陽射しを受けて、
キラキラと光るモミジの葉。
その隙間から漏れる木漏れ日。
シンとした、音が消え去った空間に広がる風景。
たったそれだけで、とても感動したことを
覚えています。
 
その真っ直ぐつづくアプローチの奥に、
蓮華寺の入り口がひっそりと。
強い陽射しを受けるアプローチの空間から、
中に入ると一気に空気が一変します。
 
陰になって、ひんやりと涼しい内部。
そこから見ることができる二つの庭は、
夏の強い陽射しで照らされて、
ハッとするほど際立って見えます。
 
一つは、絶妙なバランスで石が配された池の周りに、
モミジが覆い被さるように生い茂る庭。
 
もう一つは、アプローチの脇に建つ、
蔵のような建物のある庭。
 
前者の庭では、縁側の障子は外され、
庭とのあいだに遮るものは何もない。
その中で、暗がりの畳に座って、庭を眺める。
縁側と垂れ壁が切り取る緑の景色は、
今でもはっきりと思い出せるほど、美しいものでした。
 

 
後者の庭は、特に有名なものではないかもしれません。
古びた建物の分厚い扉や、
ところどころ剥がれ落ちた漆喰の外壁の風合いと、
苔むした地面、
周りのモミジの青々とした背景が折り重なって
このこぢんまりとした庭を
とても魅力的なものにしています。
 
不思議と惹きつけられ、気づけばじーっと
この庭を眺めていました。
 

 
いま思い出してみて、改めて思うこと。
何も語らなくても、はっきりと分かる、
その空間の素晴らしさ。
きっと、誰が訪れても、心に響くものが
蓮華寺の空間にはあるのだと思います。
 
そんな、誰しもが共有できる、
感動のある空間をつくることを大切に。
これからも設計していきたいと思っています。
 
Kojima