所有欲

2019.3.1

家具の打ち合わせで、とある家具職人さんとお会いし興味深いお話を伺いました。
 
工房には、作業段階の椅子がいくつもありました。
画一的な大量生産品とは違い、無垢材で丁寧に仕上げられたその家具は、誰もが気軽に手に入れられるものではなく、それなりの値打ちがあります。
 
面白いと思ったのは、その中のひとつがダイニングチェアとして一脚だけ購入されたもので、家族の中で一人の所有物として使われる、ということでした。
「座るという機能を求めるだけではなく、所有欲を満たすために家具を持つのもいいよね、大人の楽しみとして。」と。

 
 
“所有欲を満たす”
 
 
もちろん私たちは
いつも贅沢ができるわけではありません。
「欲を少なくして、足るを知る」という考え方は美しいと思います。
一方で、その分野において感度が高い人ほど、良い素材や製法、あるいは手間や想いを込めて作られたものにこだわりがあるのではないでしょうか。
 
たとえば、食べることが好きな人は、良い食材や調味料を用いたり、美しい器に盛り付けたり、その“食事”の時間を楽しむための工夫やこだわりがあるようです。
調理に立つキッチンの天板の仕上げがなんともかっこいいんだと語ったり。
 
音楽を嗜む人は、書斎に飾ったお気に入りのレコードから気分に合わせて選曲し、美味しいお酒を飲みながら至極の時間を過ごしたり。でしょうか。
 

住宅として、“住みやすい・使いやすい”という機能性を満たすことは当然として、
どこまでも前向きな思考が広がっていくような癒しの時間を持つことも大事にしたいです。
 
「建物をデザインするのではなく、暮らしをデザインする」という言葉のように、
便利さを求めない所有するだけの時間に視点を当てて暮らしに向き合うことも、私たち設計士がみなさまの家づくりをお手伝いする一つの理由に感じています。
 
By ogawa