時を紡ぐ
2024.8.30
まだ大学で建築を学んでいた頃、
あいちトリエンナーレのボランティア活動を通して
一人の女性と出会いました。
その女性は御在所岳の麓にある築200年の住宅に
住んでいて、「建築を学んでいるのであれば
ぜひ我が家を見に来るといいよ」と自宅へ
招待してくれたのです。
御在所岳を望む田んぼ道を進んだ先にある家主の家は、なんとも立派な母屋と茶室、蔵があり、
外観は日本家屋、屋内は和洋折衷の様式となっている
とても美しい建築でした。
一方で、人も猫も自由に出入りして良い、
という家主の大らかな性格もあり、
昔使用していたと思われる三和土の炊事場には
火釜の横にグランドピアノが置かれていたり、
蔵がギャラリーになっていたり、
常に「はじめまして」の人がいて
それぞれが思いのままに過ごしていたりと、
住み方ってこんなに自由でいいのか!
とはじめて体感した出来事でした。
最近ではお邪魔する機会も減ってしまいましたが、
年始の挨拶とともに届いた手紙には、
『ついに家手放してを
息子と海外を放浪することにした』
と綴られていました。
歴史がある、広大な家だからこそ
耐震補強や維持管理の大変さも聞いていたので、
ついにこの時が来たのかと少しの寂しさを感じつつも、
これまで家を愛し、大切に守ってきた
家主に尊敬の念を抱いています。
学生時代のこの出会いは、現在設計に携わる上で
とても大切な軸になっています。
<少しでも永く住んでいたいと思われる、
愛される家をつくりたい>
住んでからが本当の家づくりです。
建物は月日が経つほど手が掛かります。
それでも味が出て、住まい手の色になっていくことを
楽しいと共感していただけるような
住まいをつくっていきたいなと思っています。
Nakamori